何もなさそうなだだっ広い草原。
男はそこに似つかわしくない格好で、歩いていた。
ふう
「やれやれ。とんだ遠回りでした。」
この同じセリフを何度繰り返しただろう、もう自分でも聞き飽きた、と思う頃。
ようやく目的のものが遠くに見えてきた。
やれやれ
「人間の足は、やはり不便ですね。」
遥か向こうで、なにやら影らしきものがゆらめいて、男はそれに答えるように大きく手を振った。
まぁ、
「よくきましたねぇ。ごめんなさい、いつもならとっくに家に帰ってるんだけど。」
いいえ
「いつもこの時期は家だと・・・、連絡もしないで来たバチが当たったんです。」
ほほほ
陽気な声をたてて笑うのは、清楚な老婦人。
男は少し肩を落としつつ、婦人が入れてくれた茶を飲んだ。
どことなく、甘い香りとハーブが鼻をくすぐる。
また
「戻ってしまったのね。でも懐かしいわね、その姿。」
ええ
「またやってしまって・・、若返ったのはいいんですが、ほとんどの力が封じられてしまって、ここへ来るのも自分の足で来たんです。おまけにこの顔だと子供達はなかなか信用してくれないんですよ。」
ほほ
「でしょうね。なら、」
婦人は立ち上がり、小箱を男に差し出した。箱は開け口の部分がへこみ、誰かが使い込んでいたものらしい。
開けると、古い眼鏡が入っている。
男は手にとる。するとまるで今まで自分が使ってきた物のように、手に馴染む。
これ
「まさか・・・。」