気がついた時、灰原は病院のベッドで寝ていた。
まだ額のあたりが痛む。
跳ねられた後の記憶はない。気を失ったのか。
灰原は周りを見渡した。
ベッドの横にはパイプ椅子が置かれ、さきまで誰かここにいたようだ。
飲みさしの缶コーヒーがそばの机に置いてあった。
「ここは…病院?ってとこか…?まさか施設に連れ戻されたのか…?」
そこにふと白髪混じりの男性が現れた。
「おっ!目が覚めたか!ごめんな〜まさかあんなとこから飛び出してくるとは思わんかったもんでな!」
男性の悪びる様子は薄かった。
だが、灰原の意識はそんなところになかった。
「ここは…病院っていうとこか?本当に……
あっいや…病院っていうとこです…か?」
「そんなかしこまらんでもいいよ〜!
ここは市民病院だよ〜」
男性は机に置かれた缶コーヒーの残りすべてを一気に口に流し込んだ。
男性の言葉を聞き、胸を撫で下ろした灰原はもう一度身体を倒した。
「おめぇ、名前なんつっだ?」
男性が微笑みながら聞いた。
灰原はすこし黙って、
「山口 一樹(ヤマグチ カズキ)です。」
と言った。
「一樹君か〜おめぇ今日これから暇かえ?」
「え?」
「先生もあと2時間ほど休めば今日のうちに退院できる言うてたからな、その後からお詫びっちゃあなんだけどな、おっちゃん家で飯ご馳走したるよ〜」
男性はニコニコしている。
灰原は唖然としながらも、
「あ…お願いします。」
口が勝手に承諾してしまった。
きっと変な何かを期待したんだろう…