「あの時すぐにわかりました。私の同志を射殺したあの射撃は、海兵隊やレンジャーでは出来ない。私達は幾度となくアメリカ軍と戦っています。あんな射撃を見たことはない。急所を完全に撃っていた。それに、あなたが私を取り押さえる素早さ。全く違います。あの時…私はあなたの目を見ました。黒い瞳だった。アメリカ人では無いと感じました。取り押さえ方も違った。どことなく優しさがありました。日本人だと…確信しました」
だからか…あの時、マスターは微妙な瞳をしたのか。
「残念ながら、推理はハズレだ。私は日本人ではない。終わりにしよう。今日はもう」
「待ってください」
「なんだ?」
「あなたが…あなたがもし私の立場ならどうしますか?」
「…身体をやすめろ。拷問はさせない。約束する…私なら…私なら…テロではなく頭脳と汗でアメリカに勝つ努力をする。テロがなくなれば日本はアフガンを更に支援するかもしれない。うまく使う事だ…憎しみを憎しみで返すより更に上に立てばいい、アメリカの上に…」
僕は取り調べ室を出た。
「どうなんだ?あいつは何を話したんだ?」
タックは顔を真っ赤にして問い詰めてきた。
「なあタック…アメリカはな、Strong is best!だよな?パワーだよな?いつも」
「何が言いたいんだよJJ?」
「タック…イジメられた経験あるか?」
「ふん!俺が?冗談だろ?叩きのめしてきたよ刃向かう野郎はな」
「だろうな…弱者の視点だ…必要なのは…マスターから情報引き出したかったら相手の立場になりきれ。力だけじゃ駄目なんだよ」
「まどろっこしいな!何を話したんだ!」
「恨みつらみだ。アメリカへの」
「情報は?何かあるだろ!」
「タック、約束しろ。拷問はしない、食事をきちんとさせると」
「甘いな…約束したら情報引き出せるのか?」
「ああ、少なくともお前らのやり方よりはな」
タックは渋々約束した。
それから連日5日間、僕はマスターと話し続けた。
「約束して欲しい…」
マスターは5日目に言い出した。
日本がアフガンへの支援を増大させること
アメリカが過ちを認め、他国を侵略しないこと
「一兵士の私が約束出来る事ではない…ないが…可能な限り政府に働きかける」
マスターはブツブツ呟いている。
「考えたい…しばらく考えたい…」
マスターの心が揺れ始めた。