「たくっ!なんだよ!全部すっちまったじゃねぇかよ!」
無精髭を生やしたいかにも不潔そうな男がゴミ箱に蹴りを入れる。
ヨレヨレになった灰色のコートに身を包み、腰を丸め競馬場から独り寂しく出てきた。
「俺には全く幸運なんてねぇじゃねぇか・・・なんだよ・・・」
ヨレヨレコートの男は、クリスマスを3日後に控え、ネオンがキラキラ輝く街の中をトボトボ歩く。
寂しげな男の足元に、元気な小学生くらいの子供が勢いよくぶつかってきた。
「イテっ!」
「あ、ごめんなさい・・・ママー」
子供の目線の先には親らしい人間が二人立っていた。
「こら、リョウ君、すみません、息子が」
それだけ言うと3人の家族は、仲良く街のネオンの中へ消えていった。
「ちっ!なんだよ、気に食わねぇな!」
男は近くにあったコンビニに適当に入り、ひとつの熱燗を買い、それを飲みながら自宅へ向けて歩き出した。
数十分間歩き、ボロアパートにつく頃にはとうに熱燗は空になっていた。
恐らく空き瓶は彼の数十分間の道中に転がっているのだろう。
「私は〜不幸〜不幸の塊〜」
ほろ酔いの男はヨレヨレコートからおもむろにアパートの鍵を出し、それをガタのきているドアノブに差し込み、頭を垂れながら力なくドアを開いた。
「ラッキーバーンク!」
突然彼の耳には到底聞き慣れない若い女性の声が響いた。
彼は垂れていた頭を思わず上げ、その声の主の姿を自分の5.5畳という狭い部屋の中に認めた。
「どうしたの?ラッキーバンクだよ?」
彼のアパートの近くに建つ高校の制服を来た女性が、愛くるしい表情で幸のない男の顔を覗き込んだ。
「なんだ!誰だよ、お前!」
「私?私はえーと・・・」
女性は胸ポケットから生徒手帳を取り出し、名前を確認した。
「えー・・・桜咲、だってこの子」
女性の言動や意味不明な笑顔、素性など理解できない状況に彼は全く対応できなかった。
「まぁいいや、私は天使。この体は桜咲ちゃんから借りた体、そ〜し〜て〜私は〜あなたにラッキーバンクを提供しに来ました〜」
女性は彼が何か言う前に自分の唇に人差し指を当てた。
「まぁまぁ最後まで聞きなさいな。それでは今からラッキーバンクのご利用規約をお伝えしま〜す」