それがますます心の溝を深めるようで、しかしこの扉を開ければ、否応なしに舞子の領域に入っていかなければならないのだ。
「準備はいいかい?」
ミルバは尋ねた。尋ねるのが無意味なくらい、諾しか聞き入れない、という声色で。
「いいわ。――行きましょう」
耕太が頷くのを確認し、美香はミルバの緑色の瞳を正面から見つめて、きっぱりと言った。ここまで来たからには、もう後戻りはできない。引き返したくなる自分の臆病な心を殺すためにも、ためらわず先へ進むことを選んだ。
ミルバは頷き、扉に手を置く。力強く床を踏み締め、両腕の力だけで巨大な扉を、バン!と思い切り押し開けた。
「…………最悪だ」
眩しい陽光の差し込む広大な空間に目が眩んだ一瞬。ミルバの苦い声が耳に届き、意味が理解できずに美香は顔をしかめた。だがすぐに、ミント色の大理石の広間の中央に立つ、鮮烈な存在感を放つ人物が目に飛び込んでくる。激しく打っていたはずの鼓動が、しん、と止まった。
「ずいぶん遅いお出ましだな」
そこには、当然のように覇王が待ち構えていた――。
* * *
「…っぁああ!」
覇気の声と共に、ジーナは己の剣を振るう。
素早く退いた男の肩を掠めたそれは、ほとんど牽制にはならず、再び大勢の囚人がジーナに向かって飛びかかってきた。
強制労働施設は、今や混乱極まる戦場と化していた。敵の様々な形をした武器を避けたり、いなしたりしながら周囲を見回すと、素手で戦う治安部隊の青年たちの勇姿が目に飛び込んでくる。王子の姿は敵に埋もれて見えなかったが、時折ひらめく美しい金髪が、彼の無事を証明していた。
王子、ジーナと同盟を組んだ、ハントをリーダーとする治安部隊の青年約三十名。対するはラドラスを主力とする囚人二百名。……圧倒的に不利な戦いだった。
しかしそのラドラスが姿を見せないのは、唯一の救いだ。恐らく地下のトンネルを死守しているのだろう。副リーダーのルキが地下に向かったらしいが、ジーナはさして期待していなかった。薄情なようではあるが、ラドラスの強さには底知れないものがある。だが、どちらにせよ彼の勝敗の問題は、ひとまず後回しにせねばならない。
花火が上がった――つまり、美香と耕太が生きて無事に城へ辿り着いたことがわかったのだから。