ある時、二枚の雑巾があった。
少し古い雑巾は兄であり、新しい雑巾は弟だった。
二枚の雑巾は仲良く床に擦り付けられ、毎日床を磨いてはバケツ風呂(冷水)の世話になっていた。
日が経つにつれ、白かった雑巾も少しずつ黒ずみ新しさと清潔さを失っていった。
しかし、雑巾にとってそれはけして恥じる事ではなく、逆に誇りに思う事だった。
兄は汚れ、もう清潔さを失ってしまったが、誇らしげだった。
しかし、弟はそうは思わなかった。
ある時、弟は言った。
「兄よ、何故雑巾は白いのでしょうか?」
兄は何を今更…と言うような仕草をしたが、弟の真剣な雰囲気を感じ取り、答えた。
「白は清潔さを表す。…それは分かるだろう」
「はい」
弟は頷きつつ、先を促した。
「我々雑巾は汚れを拭き取り、清潔な生活を日々作らなければならない。」
「はい」
「だから清潔な白い雑巾が汚れを拭き取るのに最も相応しい色なのだ、弟よ」
兄の言葉に弟は納得いかないというような仕草をした。
「何故、雑巾は白いのですか?…私はそう言ったのです。…清潔の象徴は白、それは分かります。しかし…」
弟は一拍置いて言った。
「日に日に落ちなくなって行く黒ずみを見て私は思うのです。…清潔さを失ってしまった雑巾に価値はあるのでしょうか?」
弟の言葉に兄は動揺した。
今まで考えた事なかったからだ。
生まれた瞬間からただ一枚の雑巾…汚れを拭き取り、床を磨いて終わる雑巾生の日々に疑問なんて抱いた事がないからだ。
弟は続ける。
「清潔さを少しずつ失う日々に怯えるのではなく、始めから私達雑巾が黒であれば良いと…私は思ったのです。」
続く…