非常に
「申し上げにくい事ですが。」
と征一朗が非情の宣告を受けた時には、もう明け方になっていた。
しかし、二人は容易に受け入れられないまま、時間だけが過ぎていった。
そして、現在。
朱鷺子は痛みに悶え、水一滴も口にできずに、点滴だけで何とか命を繋ぎ止め、3日目の晩を迎えた。
真夜中、
ふい
と意識だけが戻った。頭の上で、穏やかな声がする。始めは征一朗かと思い、話しかけようとした。
しかし、
よくよく
聞くと征一朗ではない。が、低く穏やかで愛情豊かな優しい声だ。
誰かをあやしているらしい。
よしよし
「うん、そうだよ。君はこれから神様の所へ行くんだ。」
それから・・
なぁに?
「神様の所?」
聞き馴れない言葉に思わず口が出てしまった。
目を開けると、相手も何故か
ぽかん
と、口と目を開いている。
重い身体を持ち上げると、すぐ脇には征一朗が寝入っていた。
そして、その横で大事そうに何かを抱える
ぼろぼろ
のコートの男がこちらを見ていた。
・・・
「・・・。」
・・・あの、
「貴方、だぁれ?」
朱鷺子は出来るだけ優しい声で話しかけた。こういう場合、相手を刺激しないようにするのが一番なのだ。
可愛いらしく小首をかしげてみせる朱鷺子に、男は少し顔を赤らめたが、真夜中の闇の中ではそこまではわからない。
あ、
「そ、いや、その、これは、その、・・・」
・・
「僕が、見えるんですね。」
男は不思議な事を言ったが、朱鷺子はさして気にとめなかった。
ええ
「見えるわ、貴方赤ちゃん抱いてるの?ここの病室の方の付き添いの方?」
朱鷺子の問いに、男は首を振った。
いいえ
「違います。僕はこの子を迎えにきたんです。」