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一瞬、耳を疑った。
え、
「迎えに?」
ここで朱鷺子は初めて、背中を
ひゅと
とした悪寒が走るのを感じた。
じゃぁ、
「退院なさるの?」
背中で感じる冷たいものとはまるで逆の事を聴いた。
男は戸惑う様に赤ん坊らしきものに目を落とした。
いいや
「退院するんじゃないよ。」
僕は
「この子を案内しに来たんだ。神様のところにね。」
男がそう言った途端、
すう
と点滴の辺りから身体が凍っていく様な感覚が走った。
が、
神様
「のところって、じゃぁまさかその赤ちゃん亡くなったの?」
その問いに男はうつ向きながら今までで一番穏やかな声で答えた。
そうだよ
「ついさっきまで頑張ってたんだけどね。」
この子は・・
「っ!!」
顔を上げた男は
ぎょ
とした。朱鷺子の両目から黒い滴が頬を伝っている。それが白いシーツに落ち、月明かりに照らされて青黒い染みを作っていく。
君は
「この子が誰の子か分かるんだね。」
朱鷺子は目も逸らさずに頷き、少し大きくなりはじめたお腹を押さえた。
わたしの
「私達の赤ちゃん、なのね・・。」
・・
「・・。」
男はただ頷いた。
う・・ん
「朱鷺子、誰と話して・・い・・る・・?!」
すぐ横で交わされる会話に、征一朗が目を覚ました。
が、男の気配に気がついて、
がば
と朱鷺子と男の間に立ち塞がった。
男は頭上から鬼の様な面でこちらを睨む征一朗に、
ぐ
と驚きと恐怖を感じたが、
ふ
と一瞬で表情を変え、朱鷺子にもした質問を繰り返した。
僕が
「見えるんですね。」
君は
「?誰かね。何故ここにいる?」
征一朗は普段恐ろしい顔をさらに怖くして凄んだ。
男は 繰り返した。
僕が
「見えるんですね。」
落胆したようにつぶやいた。
何を
「言っているのかね?見えるが、当たり前だろう。」
いいえ
男はそう言って目の前から消えた。二人が
え
と驚いていると、反対側で、
僕は
「人間じゃありませんから。」
と声がした。