俺、倉沢諒司は、品川恵利花の中に存在する『女神』フローリアの言葉に聞き入っていた。
(と言っても、テレパシーというヤツだが…)
《あたしは、人間界に降臨する最後の神界の者、という事になりますが…》
「最後の? 君で終わりってことなのかな?」
女神フローリアが少々言い淀んだあたりで、俺は問い掛けてみた。
《はい。 …それで、実はあたし、まだ一人前じゃないものですから。
お恥ずかしい話ですけど、神界の力を制御するのには天使達の補助が必要なんです》
そう言った後で、ちょっとうつむき加減にはにかむ笑顔を見せた。
(うわぁ、可愛いなァ…)
心がフワッと暖まる笑顔に魅了され、思わずこちらまで微笑んでいた。
《ありがとう。 あなたも、素敵な笑顔ですね》
「い、いえ、…どう致しまして」
いきなり礼を言われ、思考が筒抜けだったのを思い出す間抜けな俺…
相手が『神様』なのをすっかり忘れていた。
《この子は、あなたとの出会いによって過酷な運命をまぬがれました。
本人に成り代わって、ここにお礼申し上げます》
「は、はァ…どうも」
どう見ても十歳くらいの少女に「この子」呼ばわりされた当人は、相変わらず、幸せそうな寝息を立てている。
女神フローリアは感謝の言葉を残し、元の柔らかな光へと姿を変えて、エリカの体に‘スーッ’と溶け込む様に同化していった。
(夢… じゃないよな?)
そんな事を思いながらエリカの寝顔を眺めていると、急に目がパチッと開いた。
俺とまともに目が合い、彼女がほんのり頬を染める。
「…ひとの寝顔見てるなんて、趣味悪いよ?リョージ」
「いーや、姫君の寝顔見られて光栄だな」
初めてエリカが泊まった時は、結局朝まで話し込んでいたのだ。
「も〜、……意地悪」
照れ隠しにプイと横を向いた品川恵利花。
俺は、彼女のくちびるが
(シアワセ‥)と動くのを見て
(俺もさ‥)、と心の中でことばを返していた。