子供水先案内人〜過去からの話4〜

Joe 2011-11-25投稿
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まぁ


ぬぉ

二人は心底驚いた。まるで、幽霊の様に消えては現れた男に、朱鷺子はおもわず征一朗のズボンの端をつかんでしまった。元来それほど怖がりではない。どころか、それとは正反対の性格である。
しかし、こうも目の前で消えたり現れたりされては、驚くのも当然だ。
征一朗は、というと、こちらは朱鷺子とは逆。根っからの怖がりで、怪談など聞こうものなら、大人になった今でさえ夜中に小用にいけない。
今も心臓が飛び出して、足が勝手に部屋を出て行くのではないかと心の片隅で
ひやひや
した。が、朱鷺子の前でまさかそんな事は出来ない。


僕は
「人間じゃ、ありませんから。」
とまた、寂しそうに繰り返した。
男の視線の先の、赤ん坊らしきものを見て、はた
と我にかえった朱鷺子は掴んだままのズボンの端を
ひゅい
とやった。


征一朗さん
「ごめんなさい。赤ちゃんが・・赤ちゃん、駄目になってしまって・・。」


え?
「あ、・・なに?」
征一朗はすぐに理解できず、
おろうろ
した。
というより、今の恐怖でそれまでの出来事がすっかり頭から抜けてしまっていた。
「朱鷺子、」
しかし、妻の顔を見るなり折り崩れる様にその顔にすがりついた。
「どうしたんだ、これは。」


え?


と自分の頬に触れてみた。すると、涙の感触ではなく、
ぬるり
とした、薄い絵の具の様なものがついている。
それを、見てみると。


血?
「なの?」
暗くてよく分からなかったが、確かに薄黒いものが付いている。征一朗は朱鷺子の顔に傷がないか何度も確かめたが、顔にも目にも傷はない。


朱鷺子
「君、ひょっとして泣いたのか?」



「ええ、さっき。」
確かに泣いた。しかし、朱鷺子が流したのは涙ではないようだった。


血が
「涙の代わりに流れたんです。あなたは3日間水を口にしてませんよね。」
足りないんです
「体内の水分量が。僅かな点滴だけでは。」


しかし
「血の涙とはよくいうが、実際には聞いたことがない。」
征一朗はまだ朱鷺子の顔を調べながら言った。

でも
「あなたはその‘ありえない涙’を流した。‘心の痛み’のあまりに。」

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