でもなぜ彼女はそんな顔をするのだろう。その疑問に答えるように、彼女の口が開いた。
「会いにきて、くれたの?」
そのつもりだ、と答えようと口を動かすが、言葉がでない。
「聞こえないよ。やっぱり、あたしが見てるのは幻なのかな」
そんなことはない。僕はちゃんとここにいるよ。しかし声は出てくれない。
「そうだよね。一輝は、一週間前に死んじゃったんだもんね」
その時だ。
僕は何もかも思い出し、同時に彼女の後ろの扉から、見覚えのある中年が現われた。彼は不思議なものでも見るような目をしていた。
「どうした美和」
「お、お父さん」
彼女は、父親が現われたことに動揺していたが、僕はそれどころではなかった。
僕は一週間前に車にひかれた。だけどそれで死んだことに気付いていない僕は、この一週間、いつもどおりの生活をしていた。
そして僕は今になってようやく気が付いた。馬鹿だ。死んだことも忘れ、のうのうと彼女の前に現われた。それどころか、浮気をしたとも思った。