「私は〜私は〜幸せぇ〜
っと」
男は高揚しきった気分を一切抑えることなく
ガタのきている扉を開き
今日の収穫を嬉しそうにみつめると
そのまま床にふし、眠りに就いた。
翌日
クリスマス・イヴを迎えた街は
いつも以上に活気があった。
「そういえば
今日はイヴだっけか」
男が街に繰り出すと
ネオンに彩られた世界が
カップルや家族を包み込んでいた。
そんな中、駅前に一際目立つ1組の夫婦がいた。
「すみません
私たちの息子を知りませんか。
身長は98の8才の男の子なんです」
ビラを配りながら
手袋もはめることなく
白い息を吐きながら
懸命に街行く人々に声をかけていた。
そんな夫婦を無視するように
人々はネオンを指さし
各々の会話を弾ませていた。
男はなぜか無性にイヤな予感がした。
男は踵を返し
自分の部屋に帰った。
自分部屋のガタのきている扉を開くと
中にいた。
「気づいた?」
天使はニッコリ微笑んだ。
「やっぱりか
俺のこの幸運は本当はあの家族のものなんだな」
「でも今は、あなたのもの」
天使は玄関を指さした。
ピンポーン
扉を開くと
そこには一人の女性がいた。
「あの〜、私あなたに
その〜、一目惚れしちゃって・・・」
恥ずかしそうに顔を下げたが
紛れもなく
昨日のなかなかいい容姿の女性だった。
男はなんの疑いもなく
この幸運を手に入れようとしたときだった。
「さぁ、決断の時です」
女子高生の今までとは違う鋭い声と共に
文字通りその場の時が止まった。
「なんだ!」
男は女子高生の方を振り返った。
「あなたに与えた今までの幸運に
返済義務はありません。
つまり、このままその美人と付き合うことができます。
但し、これから一生
あなたに幸運が起こる度に
ある人物の幸運が失われることになります」
男はあの家族の顔を思い出した。
「待てよ!それって・・・」
「そう、
つまりあなたは、これから一生幸運を感じる度に
あの家族のことを思い出し
本当の幸運に巡り会うことはないでしょう。
それがイヤなら、
もうひとつの選択肢があります」