蝋燭の火?

けん  2006-09-15投稿
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 「ああ、五郎さんやないすか。またこんな日曜にどないしたんですか?」
 五郎は昨日の出来事を説明した。自分の喉がひどく乾いていることに気付く。
 「う〜ん… ありえへんっちゃーありえへん話ですわな。まさか五郎さん、そのことについて本気で悩んでるんとちゃいますやろな?」
「あほ、んなわけあるかい。3日後には死ぬいうのに悩んでてもしゃあないやろ」
毅は一瞬戸惑った。五郎の答えが本気なのか、それともいつもの冗談なのかわからなかったからだ。しかし冗談でないことは、五郎の次の言葉で明確になった。
 「俺な、明日八月九日付けで会社を辞めるわ。それで本来あったはずの残りの人生を、これからの3日間に詰め込むねん。具体的な予定は決めてある。そこでな毅、3日後の八月十日、つまり最終日や。その日はお前の予定を空けといてくれへんか。ちょっと付きおうてほしいとこがあるねん。準備は特にいらん。余命幾ばくかの人間の最後の悪あがきやと思うてくれてええし、それに俺とお前の数年来の仲やないか。ええやろ?」
「五郎さん…。たしかに僕は今の仕事に落ち着く気はないですけども…、ちょっと話が急すぎますわ」
 毅は困惑を隠し切れない様子であった。事実、当初は五郎の申し出を断ろうかとさえ思ったぐらいだ。五郎はなおも続ける。
 「俺な、自分のやりたいことをこの3日間でやろうと思う。でも、人間なんて所詮は欲望のかたまりやさかいな。人によっては、酒や女に残りの命をつぎ込もうなんてことも考えるかも知れん。俺も考えんかったでもない。でもな、それは間違いなんや。きっと間違いや。少なくとも長い人生の大事な区切りでそんなことするやつは、ただのアホや。刹那主義もええとこや。俺はそんなことはせん。もっと別の観点からこの状況を考えた。その結果が、お前へのさっきの申し出や」
 一見強い方向性のある五郎の意思表示ではあったが、毅の心を引き寄せる決定的な要素が欠けていた。毅はようやくそれを指摘する。

 「一体…、何をするつもりなんですか?」

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