そこは以外に広かった。そして薄暗くとても歩きづらい。明かりを持っていないサラは壁に手をあててなるべく奥へと急いだ。
しばらく奥に行くと悲鳴のような声が聞こえてきた。
「…アリス?」
声の方へサラは急ぐ。
「誰かっ!助けて!」
今度こそはっきりとアリスの声が聞こえた。同時にサラの視界にアリスと妖魔の姿が入る。
サラは早口に呪文を唱えた。
『清き水の子よ、刃となりて魔の者を切り裂け』
サラの手から勢いよく水があふれた。水は妖魔の身を切り裂く。
「ギャァァッ」
妖魔は声をあげて暴れた。サラに向かって突進する。
「しぶとい…」
サラは生み出した水でクモの糸のように妖魔を戒めた。
妖魔に与えた傷は深く、しばらく戒めていると動かなくなった。
「すごいわサラ!ホントにあなたは魔法使いだったのね!」
「無事?」
「ええ!かすり傷ひとつしてないわ。」
「そう。なら良かった。」
アリスは動かなくなった妖魔を見た。
「これが砂漠化の原因なの?」
「…この妖魔はまだ子供。どこかに親がいるはず…それを倒さなければ砂漠化は止められない。」
「子供を倒すだけじゃダメなのね。」
「そう。妖魔は魔法の力を吸いながら成長する。ここに巣くうすべての妖魔を倒さなければ砂漠化は止められない。」
「たくさんいるのかしら…」
「それは大丈夫。妖気はあとひとつしか無いから。」
「分かるの?」
「ええ。この大穴に入ってすぐ分かった。とても強い妖気…私の魔法がどこまで通用するか…。」
「だ、大丈夫なの?」
サラはその質問には答えなかった。ひとり奥へ向かう。
「あなたは引き返しなさい。ここから先は私ひとりで行く。」
「えっ!?いやよ、ひとりでこんな暗がりを歩くなんて怖くて耐えられないわ。」
するとサラは無表情のままため息をついた。
「あなたと一緒にいると疲れる。」
「いいじゃない。一緒に妖魔を倒しましょ。」
あきれるサラの背中をアリスが押す。のんきに鼻唄まで歌っている。
「あなたはどうしてそんなに笑ってるの?」
「楽しいからに決まってるでしょ。」
「楽しい?」
「ええ。魔法使いと妖魔退治なんてめったにない体験よ。」
「……。」
アリスはまったく妖魔を怖がっていないようだ。
しかし、なぜかサラは嫌とは言わなかった。アリスの背中を押す手の暖かさに不思議とサラは静かに微笑んだ。
それが嬉しいという感情だとサラはまだ気づくことはなかった。