「ね?ほら、もういいでしょ?」
ルカは少し子供っぽい笑みを浮かべて、首を傾げた。
そして、腕を絡めると歩き出しそうとする。
しかし、レクスは動かなかった。
「ん、何?」
上目にレクスを見上げ問うと彼は何も言わずに歩き出した。
「――っ!?ちょっ、ディル!?」
「残念だけど俺は君のディルじゃない。レクスだよ。」
「――っ!!やだぁっ!!ねえ!ねえってば!!」
喚くルカを半ば無理矢理連れて歩く。
(流石にうるさい!!)
そう思い、腕を離し引き寄せる。
彼女の唇に自分のそれを重ねた。
「んんっ!?」
驚くルカをよそに繋がりを深くすると相手から求めてきた。
「ん…ふぁ……。ん…ぁ…ディル……。」
リアの甘い声で他の男の名を呼ぶ。
それが苛ついた。
だから突き放すようにしてルカを離す。
「ほら、行くよ。」
ルカ、と呼ぶと彼女は嬉しそうに笑った。
(ごめんね、リア。)
「ルカ」と呼んだその瞬間から「リア」を否定してしまったような気がして、「リア」の反応が怖くて謝る。
――リア、どこにいる?
「…レク……?」
真っ暗な闇の中で愛しい人を呼んだ。
しかし、何も返ってはこない。
「ルカ…どうしてこんなこと。」
小さく呟くと声が聞こえた。
「ルカ。愛している。泣かないで。恨むのならこの裏切り者を恨んで。」
「…ディル……?」
レクスによく似た彼、ディルはリアを認めると抱き寄せた。
最初こそ驚いて声も出なかったが、はっと我にかえると勢い良く押し返そうとした。
「ごめん。『リア』。」
「――っ!?」
彼は『ディル』ではなくリアの知っている『レクス』だった。
「…レク……。」
彼に手を伸ばして顔に触れる。
笑顔、声、仕草。
全てリアの知っている、大好きな…
「レク……!」
でも、違和感があった。
『ふぅん。リアはMなんだ。安心しなよ。いじめはしない。焦らすだけだよ。』
彼の時々見せる、少しからかうような笑み。
(優しいけど私が欲しいのは違う。レクはもっと意地悪……。)
「…そっか。じゃあ、君が『ルカ』になってくれる?」
突然引き寄せられた。
荒々しい口づけにリアは反応が遅れる。
相手と相手から送り込まれた異物の侵入を許してしまった。
「さあ、リア、ルカになろう。」
ディルがくすっと笑う。
意識が、リアの心が『眠った』。