ムイムイ。
あいつがそう言った。
ムイムイ。
あいつがそう呼んだ。
世界でただ一人、
着ぐるみを着ていない。
――あのバカが。
少女の叫びが夜に響いた。
僕は思わず後退り、
まじまじと少女を見た。
やっぱり、着ぐるみを
着ているのは
彼女の方だった。
少女は欠伸を洩らし
僕の方へ眼を向ける。
犬歯が鋭く輝いていた。
――眼が合う。
邂逅。
ほんの数秒の..。
でも僕達は、お互いに
気づいた。
――嗚呼。
これは僕だ、と。
こいつは僕だ、って。
そんなことなんて、全く
――意味を
為さないというのに。
全部全部
無駄だってのに。
無為なんだよ。
どいつもこいつも、
なんでもかんでも。
無意なだけ。
無意だ、無為だ。
――無為無意だ。