美しい音だった。
年代物のギターから生まれる濁りの無い歪みが自由を叫ぶ。
私は、止まり木のいつもの場所に腰を降ろし愛梨が奏でるメロディを心に刻み込んだ。
二度と聴けないかも知れない完璧なメロディを刻み込んだ。
『貴女を愛してる』
夢中で演奏する愛梨に囁くが、その囁きが愛梨に届く事は無い。
しかし、そんな事は関係無かった。
私達には時間が無いのだから。
当然、もう暫くすれば警察が此所に来るだろう。
逃げ切れる筈など無いのだそんな事は分かっている。
しかし、もう二度と私と愛梨の真実が略奪される事は無い。
私はBARの扉が開かれるまで目を閉じて愛梨が奏でる曲を聴き続けた。
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(了)
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