あたしは初めて恋をした。
人を好きになるってこんな気持ちなんだね。
でもこの恋は叶わない。
届かない。
だってあたしたちは…女の子同士なんだから。
橋本 那智は小さくため息をついた。
今日1日だけで何回ため息をついたことだろう。
親友の栗田 真帆に注意されたくらいだ。
それでも仕方なかった。
好きなあの人のことを考えると胸が締め付けられて苦しくて切ない。
この気持ちは誰にも言えない。親友にでさえ。
那智は隣で無邪気に笑う真帆に後ろめたく感じた。
…でも仕方ないよね。
だって、あたしはあなたが好きなんだから。
「はあ…。」
携帯を意味もなくいじる。
暇な時にしてしまうのは送りもしないのに真帆宛てに自分の気持ちをかくこと。
『あたしは真帆のことずっと好きだったんだよ。でも気付いてないでしょう?あたしはこんなにあなたが大好きなのに。』
自分で自分が気持ち悪くなる。
携帯では積極的なんだけどな。
どうせ送らないから。
半ば自傷気味に笑う。
「あはははは…はあ。」
もうあれから…3年か。
はやいなあ。
今でも思い出せるよ。
あの日君と出会った時のこと。
「栗田真帆です!よろしくお願いします!」
サラリとしたセミロングの黒い髪。
キラキラ輝く瞳は吸いこまれそうで。
目を奪われてしまったあたしは今思えば既に真帆のことが好きだったのかもしれない。
同じ中学の子が居なくて1人ぼっちで寂しかった一年生。
真帆がそう言ってあたしの手を引いたんだよね。
嬉しかったし、泣きそうだったんだ。
握った手の温もりが心地よかった。
「あっ」
送信…しちゃった?
ぼーっとしていたら画面は送信完了を告げていた。
癖で送信ボタンを押しちゃったのかな?
頭が真っ白になる。
焦りながら履歴を見てみるとやはり真帆に先ほどの文面が送られていた。
どうしよう。
泣きそうになる。
ブブブブブ…。
電話…真帆からだ。
真帆の文字を見た途端に手が震える。
どうしよう、どうしよう。
あたしは震えながらも必死に頭を働かせて結局電話に出ることにした。
「もしもし?」
真帆の優しい声。
あたしは何も言えなかった。
「もしもーし」
「あ…あの…。」
勇気を振り絞り声を出す。
もうここまで来たらごまかせない。
どうせ振られるならちゃんと気持ちを伝えよう。
そう決めた私は受話器を握る手を強めた。
真帆は何も言わない。
唇を噛みしめる。
言うんだ。
「あたし…真帆のことが好き!初めて会ったあの日からずっと好きだったの!」
「今から那智の家に行くから待ってて。」
そう言うと真帆は電話を切った。
声色が低かった。
やっぱり嫌われちゃったんだ。あたしなんか駄目だよね。
あたしなんか…。
涙が溢れて止まらない。
「…?あれ…?」
あたし決意したはずなのに。
ちゃんと気持ちを伝えられたんだから後悔はない。
なのに何故こんなに胸が苦しいんだろう。
どれだけ泣いていたのだろう。
時間感覚が狂っている。
目が痛い。
あははあたし酷い顔してんだろうなあ。
もういいや。
もう…。
ピンポーン
チャイムが鳴る。
ピンポーン
怖い。
真帆に嫌われるのが怖いよ。
ピンポーン
真帆は何回かチャイムを鳴らしたが諦めて帰っていったらしい。
家は今までのように静寂を取り戻した。
真帆…。
「那智ーご飯よー」
母の声に目を覚ます。
寝ていたらしい。
二時間ぐらいだろうか。
「はあい」
返事をするとベッドから降りる。
?雨降ってるのかな?
雨の音にカーテンを開ける。
外はバケツをひっくり返したような豪雨だった。
?何あれ…?
雨でかすんでよく見えないが人影のようなものが見える。
その人物は傘もささずに動かない。
でもあの顔には見覚えがある。
あたしは家から飛びだしていた。
「真帆!」
顔が青白くなった真帆は私を見つけると微笑んだ。
「那智…。」
あたしはふらふらとした真帆を抱きしめる。
「何してんのよ!?こんな雨の中?」
「那智を待ってた。」
悪びれた様子もなくにっこり笑う。
あたしの大好きな笑顔で。
「どうして…?」
「那智が…あたしも好きだからだよ。あたしは那智の優しいところ、ちょっと怖がりなところ、寂しがりやなところ。全部大好きだよ。」
真帆はやさしく笑う。
あたしはまた涙が溢れてきた。
「泣き虫なところも。」
あたしたちは人目もはばからず強く抱きしめあった。
「大好き。」
神様、恋愛に性別は関係ないよね?
そこに愛があれば。