「もし良かったら、直ちゃんのアドレス教えてよ」
「何で?」
健史は怪訝そうに振り返った。
「だって、仕事に携帯忘れたりするでしょ。連絡取れないと困るから」
「・・なるほどね」
健史は、驚くほど簡単に納得して、携帯を探した。
それもそのはず。健史は今まで何度も携帯を忘れ、美佳をイライラさせていたのだ。
携帯がここまで普及すると、持ってないだけで腹が立ってしまう。
「ここにあるから」
テレビが気になるようで、こちらも見ずに携帯を出した。
「ありがと・・」
やっと入手した、彼「直ちゃん」のアドレス。
私は電話が嫌い。携帯でも、着信は取らない。
履歴を見て、しばらくしてからメールする程だ。
お陰で、仕事では何度も怒られているのだけど、どうしても苦手で取れない。
直ちゃんの番号は、ずいぶん前に聞いたのだけど
さすがにかける勇気なんて、どこを探したって持ち合わせてない。
しばらくアドレスを眺めて、携帯を置いた。