女に用事などなかった。ただただ部屋を早く出たかった。自分の知らない中身を見られる様で恥ずかしかった。脱ぎ捨てたままの衣服。濁った空気。同年代の男の子には無い異臭。おかしな安心感に困惑した。
翌日約束通りまたマンションへ。昨日の様な不安はない。むしろ積極的な自分に驚く。『こんにちは』。
男の服を着替えさせ、散乱する衣服を集め洗濯機へ。あたふたする男…意外とかわいい。リビング。キッチン。寝室。次々と片付ける。自分で満足出来る程テキパキ動けた。2時間程であらかた片付いた。男がインフルエンザだった事もすっかり忘れて使いまくった。『お疲れ様。コーヒー飲む?』お湯を沸かし…珈琲がない。『珈琲ないよ?』『目の前あるよ』『ないよ』『あるよ』『どれ?』…
女はレギュラー珈琲を知らなかった。当然煎れ方も。顔が赤らむ。取り繕えない。『自分でやるよ』男は笑いながら珈琲を煎れ始めた。ソファーに座り男を見た。ずんぐりした後ろ姿。グシャグシャの髪。飾らない姿が愛しく思えた。