電車が揺れる
隣には女がひとり。
友人Fの悩み相談が、そもそもの始まりだった。
「でも、ただの夢だろ?」
「不気味だと思わないか?
見た事もないのにさ、決まって、触れそうなくらいハッキリ"見える"んだ。
布団でも、単なる居眠りでもいいや、とにかく眠くてウトウトしてくると、決まってソイツが出て来るんだ。
昔、覚えてないくらい小さい時に、映画か何かで見てトラウマになってたのかも知れないけどさ、
それにしても今さら…
いや、別に何でもいいんだけど、ソイツのせいで、毎晩うなされるんだよ。
別にソイツが夢で何かやらかすとかじゃないけどさ、
眠る前に目を閉じるとソイツがそこにいて、その後は決まって救いようのない悪夢なんだ。」
「まぁ…考えないようにするこったな、ソイツの事を。」
「そうなんだけどさ…どうしても無理なんだよな。
紫の鏡みたいにさ。」
「何だっけ?それ。」
Fは、そのうちぼんやりしてる事が多くなった。
俺はそれを不眠症のせいだと思っていたし、F自身も自分の変化に気づいていたかどうかわからない。
Fはある時、自分の部の顧問をしていた女教師を、相談があるからと呼び出した。
いや、それはただFがそう言っていただけで、二人だけで、学校の外で会っていたのだから、ただならぬ関係だったんじゃないかと、周囲は噂した。
その女教師は、変死体で見つかった。
首から上を徹底的に潰されており、身元を解らなくするためというよりは、余程強い恨みがあったんだろうと、元警察関係者がワイドショーで言っていた。
Fは、何故こんな事をしたのか、自分でもわからない、と供述したそうだ。
だけど俺にはわかる気がする。
あの日から、俺も
隣には女がひとり。
電車が揺れても目を覚まさない。
他に車両に誰もいない。
後で捕まるかも知れないけれど、邪魔する奴はいない。
俺も、Fの見たソイツを、触れそうなほどはっきり見ていた。
毎晩毎晩。
正直迷惑で、悪夢と寝不足で残虐な事に対するリミッターの外れた頭で時々考えている。
ソイツをコロシたい。
どうすればコロセルだろう?
顔のない女を。