四両目左手扉脇

ケィ。 2012-04-08投稿
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その日、残業続きだったのがやっと一息つける事になって、はりつめていたのが一気に弛んでしまったのでしょう。

私は電車に乗るなり、熟睡してしまいました。


どれほど経ったでしょうか。


そのうち、誰かが私の太股に触れているのを感じて、痴漢されていると思い、はっと目が醒めました。


しかし目に飛び込んで来たのは、汚らわしい痴漢の手でなく、ベルトで固定された自分の足でした。


目の前には、金槌を持った男の子がいました。


その金槌が、ゆっくりと振り上げられ、その狙いは正しく、手すりに繋がれた私でした。



なんでなんでなんで、何で私が?

やだやだやだやだ、


……人はナイフを突きつけられるのと、金槌を振り上げられるのと、どちらにより恐怖を感じるのでしょう。

男の子が金槌を振り上げ、それが真っ直ぐ自分の顔に向かって来るのがわかった瞬間、私は顔を庇った指の折れる音が、聴こえた気がしました。




しかし、それが私に当たる事はありませんでした。



目を開けると、そこには私以外、誰もいませんでした。

ただ、私の太股には、くっきりとベルトの跡がついていました。





後から聞いた話ですが、昔、その電車の中で、女の人が金槌を持った男の子に襲われる事件があったそうです。

女の人は頭を庇って手を骨折したそうですが、たまたま隣の車両にいた男の人が気づいて助けられ、一命をとりとめたそうです。

しかし、彼女を殺し損ねた男の子は、次の駅で降り、駅を通過する対向列車に飛び込んで亡くなったそうです。



その日から、遅くなったら電車に乗るのは止めましたが、恐怖のためか、今も、金槌を振り下ろされてグチャグチャになった女の人の顔が頭から離れません。


私も、被害にあった女の人も助かって、そうはならなかったのだから、馬鹿げた妄想だとは思うのですが…



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