ディルに裏切られたその日に私は屋敷を出た。
ドミニエの背に乗らせてもらって。
『ここよ。この廃教会。』
ドミニエがすりよってくる。
だから嘴の上の方を撫でてやる。
そうするとドミニエは更に甘えてきてくれた。
それが私は嬉しかった。
でもやらなければいけないこともある。
ドミニエには悪いと思ったけど一歩下がって話しかけた。
『さあ、子供を連れてきて。子供の髑骸が必要なの。あとのは大丈夫。ロザリオ、聖水、ナイフ、髪、鏡、そして私の血。陣は血で書くわ。その方が力が強力になるから。』
行ってくれるわね?と微笑んでみせた。
そうするとドミニエは一つ喉を鳴らして飛び立った。
黒い翼が舞う。
ひどく寂しかった。
『…ディル……。何で?何で分かってくれないの?』
アルベードはスパイだった。
敵国の王に代々仕えている家の生まれであった。
そのアルベードが易々とディルに近付けたのは、アイロウド家に代々仕えている家の養子になったからだ。ずっと幼い頃のことだったらしい。
しかしアルベードにディルへの情は芽生えることなく――。
だから私はアルベードを殺した。
最期までアルベードはあちら側の人間だった。
ディルを、アイロウド家を憎み続けていた。
『父も母もあいつの家に殺されたんだ。そんな家に情が移るとでも?そんな馬鹿なことはありはしない!俺は奴を殺す。』
彼が剣を抜いた瞬間咄嗟にドミニエが彼に襲い掛かった。
私が口を開いたのとドミニエが彼の半分を食い千切るのはほぼ同時で。
いや、私の方が遅かったに違いない。
しばらくは声も出せず、ただただ時々びくんと跳ねる死体を見つめることしかできなかった。
いつの間にか流れていた涙を拭った。
『このままじゃいけない。死体をどこかに移動させましょう。』
グルルルル
すりよってくるドミニエに顔を埋めると撫でてやる。
『行って。』
ドミニエが残りの遺体をくわえて飛び立った。
私がドミニエを守るためにたくさんの人を殺した原因は全部アルベードにあった。
私はドミニエを、ディルを守ったのに。
ディルは私を殺そうとする。
許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ許セナイ許セナイ許セナイ許サナイ許サナイ許サナイ
――コロシテヤル――
とても彼が愛おしかった。