「なァ、お前らプロになる気、ホンマあれへんの?」
「諒司の場合はなァ、芸能界に会いたないヤツようけおんねん。 な、せやろ?」
「仁!…その先は言うな」
ライブの後、クワトロの矢島翔、仲居仁、天野義広と我々ラットラーのメンバーが、グラス片手にマーキュリーで雑談に興じていた。
「しかし、お前らアッサリ蹴りやがんなぁ。
俺ならメッチャ売り込んで即メジャーだぞ?」
クワトロ唯一の関東人、天野も呆れ顔でいる。
インディーズの人間の正直な気持ちだと思うが、俺たちラットラーは「アマチュアを通す」事をポリシーにしてきた。
「僕を含めて本職はみんな客商売ですよね?
結局、今、目の前にいるお客さんを相手にするのが性に合う訳ですよ」
「まァ、そんなとこ。
見えない相手には入れ込めないからさ。
CD買ってくれた人全員の顔、見れねーじゃん」
「そら、そやけど…
なんや、勿体ないなァ」
仲居仁のぼやきを最後にその話を打ち切り、互いの彼女の自慢話に移行していった。
なぜか、そちらの方が議論白熱… だったりして。
「何だと? あいつらに軽くあしらわれてノコノコ帰ってきたってのか!お前達は」
「いやぁ…奴らポリシーも確たるものを持ってやがるし…。
やさ男っぽい見た目から想像するより、遥かにしたたかですよ」
「…わかった。 お宅との契約も今期限りにさせて貰う。
帰ってくれ」
「そ、そんな…霧島さん」
「耳がないのか貴様!!」
えらい剣幕でサウンドライフの記者連中を部屋から叩き出した霧島敬二郎である。
だが、一人になった途端、楽しみで仕様がないかのような笑みを浮かべていた。
「ククク… 見込み通り骨のある連中らしいな。
俺自ら動く価値大いにありだ…」
ケイ&ケイプロデュース代表、霧島こそ、一筋縄ではいかない男であった。
「ふん、…チョイと回りから切り崩すとするか」
彼は、手段を選ばない。
マスコミの影響力を最大限に活用するすべも心得ている。
『何でもアリ』である。