「どうもありがとうございました。助かりました」
ペコリと頭を下げて優子は微笑んだ。
「いえいえ。困った時はお互い様ですよ。あれ、切らしてる時に急に始まっちゃうと大変ですよね」
美穂は優子を見て答える。
ああ、可愛い仕種だなぁ。ちっとも嫌味な感じのしない、女の子アピールって言うか…。私もこんな風になれたらなぁ。
「さっきの人って、彼氏なの? ちょっとイイよね」
優子が訊いてきた。口調がフランクになっている。
「えっ、い、いや、まだそんなんじゃないです」
「でも好きなんでしょ?」
優子が更に踏み込んで来た。とても可愛いらしく。
「う、うん。だけど彼、遼一さんは、結婚してるのよ。子どもさんもいるし」
「そんなの関係ないよぅ。大事なのは貴女の気持ちだよ。いっそのこと、奪っちゃったら?なんてね」
「ありがとう。何だか勇気が出てきたわ。彼の家庭を壊すつもりはないよ!でも、自分の気持ちは大事するね」
「うん。頑張ってね。えっと…」
「美穂です。神野 美穂」
「そう、美穂ちゃんね。さっきの、遼一さん?にカンちゃんって呼ばれてる?」
「は、はい」
「カンちゃんって、やっぱりレースの参加者なの?」
優子は美穂の胸に着いたバッチを見ていた。参加者に義務付けられた物だ。
「えっ、まさか、ゆーこりんも?」
「実は、そうなんだ」
優子は隠していたバッチを見せて言った。
「ねぇ、カンちゃん…。さっきのお礼に教えてあげるね。貴女のチームにもう一人女の子がいるでしょう?あの娘には気をつけて」
「吉原さん?どうして…」
「あの娘、遼一さんを狙ってるわよ。陰で遼一さんに貴女の悪口言ってた」
美穂は目の前が暗くなるのを感じた。