「ない…」
あったはずの包丁やホォークやナイフがないのだ。
だが、菜穂子は何故か焦らなかった。
ふと、リビングの隣りにある和室に目を向ける。
「ああ…」
菜穂子は、和室へとゆっくり足を進めた。
和室の隅にある大きなクローゼットに目線を移す。
クローゼットの周りは、赤茶色の大きな染みがたくさんあった。
生臭い臭いがクローゼットからする。
菜穂子は、ニヤリと笑った。
「あなた…帰ってきていたなら言ってくれないとぉ…しかも、包丁とナイフとフォーク。ちゃぁんと返して下さいね…」
ギィ……
クローゼットのドアが開く。
そこには、包丁やホォークやナイフを身体中あちこちに刺した旦那がいた。
生臭い臭いが増す。
菜穂子は、旦那の身体中に刺された包丁やナイフやフォークを丁寧に抜き取る。
ブシュッ!ガシュッ…
「あなた…」
菜穂子は、旦那の心臓のあたりに刺さっている最後の一本の包丁を抜いた。
ブシュッブシュッ…
また、生臭ささが増した。
「あなた…お帰りなさい。」