『二、三撃で終わらせるつもりだったが、意外としぶといな。
だが、こいつに時間をかけすぎるわけにもいかないか……』
口元をゆがませる段蔵はノアを一瞥した。
圧倒的な力の差を見せ付けたことで、半次郎が認識する限界値は大きく書き換えられたはずである。
あとは放っておいても、この青年は勝手に強くなるであろう。
これより先の戦闘に意味がなくなった今、段蔵の興味は本来の標的であったノアへと、矛先を戻しはじめていた。
予備動作を必要としない段蔵の動きが、瞬時に半次郎との距離をつめる。
そしてはなたれた掌底が、半次郎の頭部を急襲する。
いかに半次郎が打たれ強くても、意識を断てばそれ以上の戦闘は無理である。
幾千もの戦場を渡り歩いた段蔵には、如何なる相手にも対応できる経験値があった。
閃光の如き掌底が放たれる中、半次郎は目をとじたまま動く気配すらみせない。
勝敗の帰趨は決した。
少なくとも傍からこの闘いを見守っていたノアの眼には、そう映っていた。
だが攻撃を仕掛けた段蔵は、その刹那に半次郎がはなつオーヴの僅かな変化に気づいていた。
その一部が、外ではなく半次郎の内に働き掛けている事に。
そして、掌底を放ったその腕を、半次郎の右手が無造作につかみとめる。
段蔵の身体に戦慄がはしる。
彼にとっては随分と久しい感覚であったが、それによって彼が動きを制約される事はなかった。
反撃されるよりも早く手を振りほどくと、段蔵は後方に飛びのいて距離をとった。
その動きに、半次郎が即応する。
段蔵との距離をたもったまま移動した半次郎は、死角をつくべく段蔵の膝元に潜り込んだ。
そして、段蔵の顎をまとに拳を突き上げる。
これを難無く受け止めると、段蔵は右膝で半次郎を弾き飛ばした。
段蔵の攻撃にあわせて身体を浮かせた半次郎だったが、その威力を完全に無効化することはできず、たまらず地に手をつけた。