天の川悠久の時輝けり
食卓に二尾の鰯の夫婦かな
鶏頭や朝日が照りてまた一輪
星空や句会の後の轡虫
上人の法を護れる秋の灯
小さかる赤子の拳終戦日
山の端に夕日かかりて案山子かな
恋したる少女の瞳女郎花
終戦日天を仰げば旅客機や
蟷螂や刈っても捕れぬ思ひあり
いにしへの天竺思ふ月夜かな
細き手にリングをはめた夕月夜
月照らしカフェオレ作り異国人
法師蝉解く数式の確かなり
弦がまた切れたと言ふやきりぎりす
霧晴れた真昼の原に駿馬駆け
啄木鳥と日曜大工父も打ち
少女笑み手にいっぱいの草の花
残暑とは知らぬ我が身の籠り唄
幼子の鮭は切身で泳ぐかな
鹿の声吾は素知らぬ振りをせり
電灯の明かりに怪し菊の花
枝豆や√の中に入りたる
暮れ時の白粉花や冥伏す
密林にただ一点の色鳥や
相撲取りやれまた今日も泥まみれ
政治家を嫌ふことなる鱸かな
縁側や鶺鴒の時過ぎにけり
中元のけふ宿題の贈り物
満天の空に月の鏡かな
三日月や宇宙(そら)に浮かぶ舟のやう
白昼に月の夢見る赤子かな
口辛く罵倒するかな唐辛子
墓参できずに鳴りし時の鐘
初秋や林の声と空の色
ポクポクと何を言ふのか鯊の口
蜩や先に盛りたる父の碗
どこまでも隈無く続く花野かな
白肌に嘘を塗りたる糸瓜かな
君の声ひと際立ちて星月夜
松虫の棲むところなる子供部屋
水澄みて攻めぎ合ふかな空の色
虫の声真昼になりて恋しかる
秋風や無量の衆生鎮魂歌
秋麗管弦楽の数々(くさぐさ)や
旅人や四方八方赤蜻蛉
撫子や日の当たりたる草の中
葉鶏頭絵筆の走るところかな