どこから入ればいいか彦星は織姫に訊いていると、背後からひょろ長い翳が現れた
やはり、この者も乙姫様のように海の中にいる
もとは天人である衆生なのだろう
そのような風貌がみられる白衣を着た初老の医者であった
ちなみに、これまで僕が見てきた天人は皆、人間サイズであるが、後で僕がネットで天人のことを調べると何でもそれは四千とか五千由旬とかいう途轍もない大きさで、まず普通に立っていたら人間と同じ目の高さで話すことはできないのだという
しかし、この由旬という単位
メートルにするとどれくらいなのか
そこまでは覚えていない
無責任で申し訳ないが、気になった方は自分で調べて頂きたい
ただ、途轍もなく長いということに変わりはないだろう
話を初老の医者が出てきたところまで戻そう
この老医について記憶の限り、ある程度詳しく特徴を述べる
まず、頭髪は初老という点で言わなくても済むがあえて言わしてもらうと半分程度が白髪で覆われているという感じであった
もう一つ、天人の特徴として頭頂には花があるはずだが、この老医にも一応は存在していると見ていいだろう
織姫や彦星、それから、同じ海に生きる天人として乙姫様の三人とは大きさこそ劣るものの小ぶりのコスモスのような花が咲いていた
しかし、そのコスモスのような花は年に似合わず衰えという言葉を知らないほど元気に咲き誇っていた
そして、顔の特徴としてはまずやはり目についたのは口髭だった
その口髭は立派なもので、僕が尊敬する明治の文豪、夏目漱石にも負けずとも劣らない美髭であった
これも頭髪と同じ半分が白髪にまみれていたが、丁寧に手入れが行き届いているとみられた
もう二つは山羊のような小さな目と銀縁の新渡戸稲造やドルトンがかけていたようなこれまた小さな丸眼鏡が特徴であった
最後に年格好は先程から申している通り、初老だから齢50代後半から60代前半とみられ、天人に換算するとこれまた後付けの知識だが、僕の調べた天人に当てはめると少なくとも人間の百倍の年として、六千歳以上かと思われた
そう考えると前に亀吉が言っていた乙姫様の五百億歳はやはり例外か亀吉の法螺かと思われた
しかし、いずれにせよ医者としての貫禄は充分であった
少し長くなってしまったが、この為杉院長とみられる老医の特徴について述べさせてもらった