そして、昨日の新聞に亀吉の率いる帝釈軍が例年よりも手強い阿修羅軍に大勝したという吉報があったという
しかし、素直に先生は喜べなかった
これもまたどんな因果関係があるのか不明だったが、虫の報せというものなのか、神通力を取得していない先生にも嫌な予感がしたという
この病院を亀吉が脱出してから、先生の感はいっそう鋭くなったのだ
そして、何とか亀吉の病気が表立って出ないうちに病院に連れ戻したいと思ったらしい
僕は、この時どんだけ亀吉思いの医者なんだと思ったが、黙って話を聴くことにした
「そして、残念なことに今宵このわしの予感が的中してしまったのじゃ」
ここまで話すと先生はここでこれ以上、長く話しては夜が明けてしまう
急いで診察しようと言い、僕らを数ある扉の中から天人専用とみられるほうへ招き入れた
病院内は意外とスッキリしていて、鬱蒼とした外観とは打って変わっていた
最先端の技術が施されたこの医療施設はどうみても精神科の個人病院というよりも、大学病院のような総合病院としかみられなかった
そこで、僕は先生に訊いてみた
「ちょっと、伺ってもいいですか」
「なんじゃ」
「この病院は精神科の個人病院ですよね」
「いや、大学病院じゃよ」
僕の質問に対してノーと答えたのは予想通りだった
しかし、その後の大学病院という言葉は予想の範疇を越えはしなかったものの先生から大学病院という言葉を聞いて僕は少し虚をつかれたような気がした
「じゃあ、なぜ看板には為杉病院精神科・心療内科と書かれていたのですか」
「もともとは、わしが、開業した個人病院だったんじゃが、わけあって青梅林大学医学部附属病院と合併したんじゃ
ただし、あの看板通り精神科の病棟だけはまだわしの個人病院だった頃の名残がある
だから、この病棟だけはまだ患者さんに為杉病院として認識されておるんじゃ」
なんだか、大学病院と個人病院が合併するのも人間界ではあり得ないし、どんな意味や意義がそこに存するのかもわからなかった
しかし、そもそも僕の存在する意味もわからないし、こんな文章力の乏しい小説を書いているのにも実際何のメリットがあるのかわからないので、きっとこの場合も空想の世界だけに根拠のないものやことが存在しているのだなと勝手に自分を納得させ、あえて先生に深く訊こうとはしなかった