僕はいつの間にか、どこかで見たことのある古い館にいた
階段を上るごとにミシッキュキュッという気味の悪い音を立てるのであった
上りきると大きな踊り場があって、そこにはありし日の親友の姿があった
それは紛れもなく翔であった
翔はその名に相応しく天馬の如く翔るのが、得意だった
サッカー少年だった翔と野球少年だった僕はいつも近くの公園で違う大きさのボールを持っていき、そこにある大きな壁に向かって投げて遊んでいた
それぞれがそれぞれの球技を何も違和感を感じず、同じ場所でやっていたのである
僕らはお互いを尊重し合っていた
将来もプロの野球選手、サッカー選手をお互い目指していた
だが、その夢は翔の命とともに潰えたのである
忘れもしない、あれは小6の時の放課後
いつも同じ公園でお互いが自主練をした帰りだった
その頃には二人とも体格も大きくなって、お互いのスポーツを遊びではなく、正式な厳しい、それでいて貴いスポーツだと認識するようになっていた
だが、お互いが自主練を終えるといつものように自転車で童心に戻り、競輪ごっこをして帰宅の途に入るのだった
それが、まさか翔の命を奪うとはその瞬間まで思ってもいなかったのである
今、目の前にはその時と同じジャージ姿の翔が立っているのである
社会人で野球をするようになって5年の逞しい体つきをした僕を彼は羨望の眼差しで見つめている
その眼差しに堪えられなくなって、僕は翔に声をかけた
「なぁ、翔
許してくれ
そもそも僕があんな遊びを提案しなければ、翔の命を…」
「いや、あれは健のせいじゃないよ
あの日は俺の足の調子が悪かったんだ
というより、この際だから言ってしまうけれど、不治の病に侵されてもう治る見込みはなかったんだ
あれは俺の自殺だったんだよ」
「でも、僕が見た限りあれは」
「うぅん、もういいんだ
俺は天国で楽しくやっているし
ほら、この通り」
翔はあの頃よく学校の階段でやっていたのと同じように三段抜かしを意味する翔三段という自分の名を冠した見事な跳躍をやってみせた
そして、いつの間にか途切れた階段の上の方までいき僕の視界から消えていった
「翔…」
僕の足元には小さな紙片のようなものが落ちていた
紙片には翔らしい丁寧な字で
「ありがとう」
とだけ記されていた