病院の廊下は長かった
どうも歩けば歩くほど院内はボロくなっていくようだった
突き当たりの一番奥の部屋は時代錯誤かと思われるような造りになっていて、僕らはその部屋にどうぞと通された
どうやら診察室らしいが、そこには奇妙な仏像が一体隅の方に置かれていた
肝心の亀吉はというと、完全に精気がなくなっているという感じであった
為杉先生は椅子に座ると急に人格が変わったように僕たちを怒鳴りつけた
「君たちもそこに突っ立っていないで椅子に座りたまえ
わしが、君たちを叱っているように見えるだろう
いいから、早よ座れ」
最後の言葉はなぜか妙に優しかった
きっと感情の起伏が激しい人なんだろう
いつの間にか、先生の頭の花が萎んでいた
僕はこの謎めいた先生の口からこれからどんな話が出てくるのか心配になった
しかし、それは徒労に終わった
まず、先生は亀吉に話かけた
「うん、あの時とほとんど変わらない
まぁ、無理をしなければ投薬をして一週間もあれば退院できるじゃろう
今は辛いと思うが辛抱じゃ
今度こそ脱走は許せんぞ」
亀吉はこくりと頷いただけで何も言葉を発しなかった
その後、この病院で一週間付き添ってくれるものは誰かと訊かれ、僕は返事した
織姫と彦星は僕に宜しく頼むというようなことを言い、翌朝天に帰っていった
一週間後、晴れて退院する運びとなった亀吉はすっかり元通りとなった
「先週の夜は三人に迷惑をかけて申し訳なく思っております
特に織姫様と彦星様にはせっかくの夜を台無しにしてしまいました」
僕は、それは仕方のないことだ
何も気に病むことはない
またそれで病んでしまったら、それこそまた亀吉が苦しむことになるだろう
とりあえず、僕は亀吉が元気になってくれたことが何より一番だ
というような、珍しく亀吉に対して優しい言葉をかけたのである
すると、いつもの亀吉節が戻ってきて
「優しい言葉をかけたりしないで」
などとどこかで聴いたことのある詞を口にした
「これからどうするんだ」
「私は竜宮城に戻ります
せっかくですから、浦島様もどうですか」
「うん、僕もそうしようかと思っていた
久々に乙姫様にお目にかかりたい」
そう言うと、亀吉はにっこり笑った
「では、参らせてもらうか」
―2話完―