由梨絵を居間に通すと喜美は急いで着替えた。
「慌てないで、ゆっくりで良いから。」
由梨絵は焦っている喜美に向かって声をかけた。
「ごめんなさい!主人を送り出して、二度寝しちゃったの。少しだけと思ってたのに…。」
喜美は珈琲を運びながら謝った。
「ご主人、今日はかなり早いのね。」
珈琲を口にしながら由梨絵は言った。
「今日から九州へ出張なの。帰って来るのは、日曜日の夜遅くになりそうだって。」
「じゃあ、日曜日のお食事は遠慮させて頂くわ。ご主人がお仕事から疲れて帰って来るのに他人が居ちゃ落ち着かないでしょう?」
喜美は、由梨絵のこういう控えめな所に好感を持っていた。
「いいの。主人には、もう言ってあるから。由梨絵さんと盛り上がっとくって。」
喜美は本当に由梨絵に来て欲しかった。
由梨絵と居ると何故か凄く落ち着く。
「本当に良いのかしら…」
由梨絵はちょっと心配そうな顔をして喜美を見た。
「尚輝さん…主人も喜んでるの。由梨絵さんとお知り合いになれて私が笑顔になったって。だから気を使わないで、お食事に来て!料理には自信が有るんだから!ね?お願い」
喜美は手を合わせて頼んだ。
由梨絵はちょっと困った顔をしてから頷いた。
「じゃあ御言葉に甘えさせて頂くわ。ありがとう。
喜美さんにお願いされると、きっと誰も断れないわね。」
「尚輝さんも、そう言ってくれるの!」
「まぁ!ホントに仲がいいわね。羨ましいわ。」
由梨絵は本当に羨ましそうな顔をして喜美を見た。
喜美は、ハッとした。由梨絵のご主人が亡くなった事を思い出して、胸が痛んだ。
「ごめんなさい。私ったら、嬉しいと直ぐに調子に乗ってしまうの…」
そう言うと、喜美は視線を下に落とした。
「大丈夫よ!確かに主人の事は悲しかったけど、今は変わりに娘を頂いた気がしてるの。だから、ちっとも寂しくないわ」
由梨絵の言葉に喜美は素直に喜んだ。
由梨絵の言葉の本当の意味も知らずに…
由梨絵は、欲しい物を手にいれた時の子供の様に目を光らせた。