風吹けば通草もゆれて鳥止まり
能面の顔した人や秋茄子
子の眠り安らかなりて震災忌
颱風のすべてをさらふやうなもの
昼寝してひと休みせり竹の春
通り雨過ぎたる朝の玉蜀黍
鳥兜近くて遠き思ひあり
草分けて子らも喜ぶ蜻蛉かな
雨過ぎて二百十日の書斎かな
朝早く二百十日やカレーパン
山里の景色を飾る野菊かな
童心にかえる我の野分かな
心労の厳し葉月の針ふれる
食べるごと葡萄の出でる言葉なし
子はいずこ言はんばかりのむかご哉
鐘鳴りて夕闇の中柳散る
竜胆の誰が入る間もなかりけり
早稲のなる時に旅人里に入る
この地あり南方もあり帰燕かな
黍の穂に時流の句だけ浮かべけり
コスモスや病院の脇風の音
人の気配一目散の小鳥かな
子を孕む日々育ちたる柘榴の実
戦中の思ひ出ふかしさつま芋
稲妻の足がしびれてまた鳴れり
学生の仲間はどこぞきりぎりす
轡虫森の女に出会せり
横たへば静かな時や秋うらら
秋風やあの日あの時あの姿
鶺鴒のその音だけをとどめけり