「あら?起きたの?」
「リアは…?」
レクスは起き上がろうと力を込めた。
しかし込めようとしてもその力はすぐに抜けていく。
仕方なく辺りを見渡してみた。
それに気づいたのであろうルカが口を開いた。
「ここはあの廃教会よ。貴方は覚えてないかしら?こういうのって被害者は覚えているけど加害者は覚えていないものだものね。」
割れていなければ美しかったのであろうステンドグラスは欠片になり、床に落ちている部分は埃が積もっている。
その埃は上からくる薄暗い光を不気味に呑み込んでいた。
キリスト像は埃を被り、マリア像は所々砕けて、そこに埃が積もっている。
椅子も散乱し、壁は剥がれ落ち、外から蔦が伸びている。
光などない。
一面が薄暗かった。
怖いくらいの静けさと、リアの…正式にはルカの優しい微笑み。
内心ぞっとする。
それを隠すかの様に笑みを浮かべると、ルカは笑みを消した。
「笑わないでよ。」
「ごめん。つい、ね。」
「貴方はディルではないのでしょう?なら、そんな顔しないでくれるかしら。」
「何で?」
「似てるから。ただそれだけよ……。」
そっぽを向くルカの顔に見覚えがあった。
(そういうことなのかね。)
苦笑した。
『だーかーらー!こんな時間に来るなって言ってんのよ!!』
夜な夜な会いに行ってリアを怒らせた。
『好きな子に会いたかっただけだよ。リアは俺のこと好きじゃないの?』
意地悪く言ってみると顔を赤くさせたリアがそっぽを向いた。
『嫌いじゃない…』
ボソッとぼやくように言ったリアをもう少しからかってみたかった。
『えー?何ー?何て言ったのー?もっとはっきり言ってよー!』
『聞こえてたでしょ!?』
『ううん。全然。好きって聞こえなかった。』
リアは更に顔を朱に染めると今度こそフイッと顔を背けた。
(その時の顔と一緒なんだよなー……。)
シチュエーションこそ違うが、似たような顔に妙な安心感があった。
「君はまだディルのこと好きなんだね。」
そう言うとルカは驚いたといった顔でレクスを見つめる。
「――っ!?ち…違っ!!」
確信に近づいた。
(ほら、やっぱりディルが好き。)
動かない体でも見つめることはできる。
(こういう瞳に女は弱い。昔からそうだった。リア以外はほとんど堕ちた。)
懐かしいなと薄く笑った。