「虚をついた程度の攻撃が、この人に通用するはずもないか。
…けど、その動きについていく事はできた」
動きについていけるのであれば闘いようはある。
千載一遇ともいえる好機をのがした半次郎だったが、段蔵を見上げるその眼は輝きを失っていなかった。
戦闘体勢をとるべく、立ち上がろうとする半次郎。
この時彼は、自分の身体におきている異変に初めて気付いた。
まるで長時間動き続けたような、全身をおそう倦怠感に。
「そこまでだ半次郎。
これより先の闘いは、オマエの身体に深刻な障害を残すことになる」
思うように立ち上がれない半次郎に、それを見透かしたノアが段蔵との間に割ってはいった。
「今オマエが発動させた力は、シャンバラでオーバードライブと呼ばれている概念の力だ」
「……オーバードライブ?」
聞き慣れない言葉に小首をかしげる半次郎に、ノアは段蔵を威嚇したまま言葉をつづけた。
「通常、人が意識してだせる力は、本来もっている力の二、三割程度でしかない。
全てをだしきった状態で動きつづければ、その身体は簡単に壊れてしまうからだ。
故に生命の危機に瀕するような場合以外は、深層心理の制御によりオーバードライブが発動することはない。
……二つの例外を除けばな」
二つの例外、それがこの無愛想な師からだされた設問である事に気付くと、半次郎は即答した。
「一つは、その制御を意識してはずした場合ですね」
半次郎のオーバードライブ発動は、それによるものであった。
オーヴを己の内に作用させたことで潜在能力の存在を認識した彼は、瞬時にその制御をはずしてオーバードライブを発動させていた。
それは、達人と称される者が長い年月を費やしても辿り着けるかどうかの境地であり、段蔵との僅かな戦闘の間に辿り着いた半次郎は特異な存在であるといえた。