オバケのアパートには、10畳の部屋と、キッチンの付いた6畳の部屋があった。
広い方の部屋は、きちんと片されていて、ギターが数本、壁際に並べられていた。
狭い方の部屋は、大量のアルコールと、よくわからない調味料で埋め尽くされていた。
「何を飲む?」オバケが聞いた。
「お勧めは何?」
オバケはボトルを1つ取った。
「これだ」オバケは、ジンと氷の入ったグラスを僕に渡した。「そいつのロック。オレのお勧めだ」
「有り難く頂こう」
その冷たい液体は、僕の喉を熱くし、部屋と僕を馴染ませた。
オバケはウイスキーを飲んでいた。
「日本酒は飲まないのかい」僕は聞いてみた。
「いいや」オバケはグラスを眺めてた。「俺が日本酒を飲むのは、あの店で焼き魚をたのんだ時だけだ」
僕はキッチンの無数のアルコールに目をやった。確かに日本酒は1本もないようだ。
「知らなかったな」
「他人の事を知るっていうのは」オバケはまだグラスを眺めていた。「世界一難しい事の1つだ。皆わかったような気になってるだけさ」
グラスの中の氷が溶けた。