――この時、私の洞察の針は、既にその男から、レジで淡々と仕事をこなす、もう一人の従業員の方へと振れ始めていた。
流石だ……
その蝋人形のような無表情は、複数の客に対応する継ぎ目継ぎ目に正確に綻び、私には、腹に添えられた両手の位置と言い、それと同時に折り込まれる腰の角度も、更にはその声の滑舌までもが完璧に思えた。
しかし、やがて本の発注の能否を告げに戻った店員の“気高い変質者”への応対が、どのレベルで評価されるものなのか……
私には判らない。
恐らくそれが判断されるのは、監視カメラの映像が本部の人事課に届けられて以降の事になるのだろう。
男が店に現れてから、店前に着けられたタクシーに乗り込むまで……
きっかり一時間だった。
やれやれ……
私はエビアンを手に、レジへと向かった。
先日10から20へ切り替えたばかりのガスターを飲む為にだ。
私は警備保障の仕事に就いて、今年で18年になるが、私服を装わなければならないこのような仕事に、これまでにも何度か宛がわれた事がある。
行き先と時間意外には何も告げられず、果たして、今回の私の任務とは、凡そこのコンビニという限られた箱のエリア内に居たすべての人間を護る事だった…という訳か…。
この場合厄介なのが、妙な正義感を見せびらかそうとする面倒臭い人種と、ここぞとばかりに鬱憤を晴らそうとするあちら系の人種の介入だった訳だ。
へまをすれば、ここの新入社員同様、簡単に配属転換の内示を受ける事になってしまう。
「ありがとうございます。
またお越しくださいませ…」
この可愛らしい女性がいずれ服用する頃には、副作用の少ないガスター30が処方されているのかも知れない……。
──────完