「そのお礼として私はささやかながらに貴方にお茶を振る舞う」
「うん」
「それは何かおかしいことですか?」
「いいえ、全く」
俺の返事に「でしょう?」とドヤ顔をする彼女。
こんなことで得意気になられても対応に困るだけである。
が、言ってることは別におかしく無い。変なのは態度だけだ。
「なら、いいじゃないですか」
クスリと微笑みかける。さっきまでの物言いとうってかわって、実に嬉しそうに。
そのギャップに内心ドキリ……としない。
「いいものか。万が一俺が暴漢だったりしたらどうするのさ」
勿論そんなことはないが。彼女の無用心さは頂けない。
「それは大丈夫でしょう」「どうして」
「だってあなた」
彼女は尚も嬉しそうに言う。
「そういうことができる程、度胸があるように見えませんから」
「それ褒めてるのけなしてるの?」
「冗談です」
クスクスと笑う彼女。駄目だ。いいように弄ばれている。
「昔から、人を見る目があるのです」
笑うのを止め俺の眼を覗き込む。彼女の瞳に自分の瞳が映って見えた。そして
「だから貴方は悪い人ではありません」
そう断言した。
「そういうものかな」
「そういうものです」
その根拠は何処にあるのかは解らないが、彼女がそう言うからにはそうなのだろう。
「それに」
「それに?」
「我が家の家訓に『借りは必ず返す』といものがあります」
言葉だけ聞くと酷く物騒に聞こえる家訓だな。
「なので、このまま貴方をおめおめ帰すわけにはいきません」
もう一度思ったがホント物騒な言い方するな。
その剣幕に圧される俺。
「わかったよ。家訓なら仕方ないな」
「そうです家訓ですから仕方ありません」
言って彼女はまたニコリと笑った。