一人の男と体を交えた。
初恋の相手だった。
けれど、彼は夜が明けるとどこか遠くへ姿を消した。戻る事はなく、やがて私は妊娠した。
ことのはったんは高校1年の夏のこと。
私、塩見ナミは水泳選手になるのが昔からの夢で、部活の無い日はいつも市民プールで泳ぐのが日課になりつつある。
「おい、ナミ!また来てたのか?」
「来てて悪い!?隼人」
彼は白石隼人、水泳を昔から一緒に習ったときからいた腐れ縁で私が密かに思いを寄せている奴。
でも、こいつは最近ある女子にべっとり。
「ああ悪いなっ!どうせなら井原マイみたいな女子がいたら泳ぎがいってもんもあるんだけど…なっ!」
隼人は最近いつも口を開けば井原マイ、井原マイと言うのだ。井原マイはうちのクラスでは美人だともてはやされてる。私なんか絶対かなわない。
「…井原マイ井原マイって、あんた達もしかして付き合ってるの?」
信じたくはなかったよ。
でも隼人は……
「まあな」
と照れくさそうにそっぽむいた。
その後、プールの中で少し泣いたのは内緒。
1週間がたつ頃に、隼人は市民プールに彼女の井原マイを連れてきた。
「ようナミ。改めて………俺の彼女」
「こんにちは、ナミちゃん」
彼女はプールなのに何故か化粧をしており、
「井原さんも泳ごっ!気持ちいいよ?」
私は彼女を憎む気持ちを抑え精一杯の笑みを向けた。
けど
「はっ?嫌。………………………じゃなくて遠慮しとくわ………だって落ちたら大変だもの」
と最後まで水に触れる事を嫌がった。
「ねぇ、隼人……」
「何だ?ナミ」
その日の帰り私は彼女が言葉使いが変わるくらい水を極端に嫌った事を隼人に伝えた。
「ああ、マイは市民プールが好きじゃないんだろ。あんな顔だち何だからきっと良いとこのお嬢様なんだ!んでプライベートビーチとか持ってたりしてな」
「ははっ」
隼人と彼女は私が入る余地がないくらい深く結ばれている。
そんな気がした。
でも、歯車を大きくくるわせる出来事が起こる。
夏休み最終日に台風が直撃。私は市民プールに行くのを止めて家で読書感想文の仕上げに取りかかろうとしていた、その時。
ピンポーン
家のインターホンが鳴ったので扉を少しあける。
そこには隼人がひどくぐったりした顔で立っていたではないか。
「ど、どうしたの?!顔色悪いし」
すると隼人は泥だらけで家に入ってきた。
「助けてくれ!ナミしか頼る奴がいないんだっ」
「……何があったの?」
「あの女、本当は美人の皮をつけた化け物だったんだよぉっ!」