「ちょっと待ってっていってるでしょう!」
遼一はカバちゃんを振り払おうともがいたが、押さえられた体はびくともしなかった。
まるで万力で固定されているようだ。弱った体力が追い打ちをかけている。
思考も定まらない。
ああ、俺はこのまま変態に犯されるのか。チクショウそんな馬鹿な。絶対嫌だ!誰か助けてくれ。シンジ君、カンちゃん…。
あ、明日香…。
混濁した遼一の思考は最後に最愛の妻の名を手繰り寄せた。
「明日香ぁ!」
遼一が再び正拳突きを放った。
カバちゃんがまた同じように両手の掌で受け止めた。
しかし、状況が前回とは違っていた。
カバちゃんが2メートルほど後方に飛ばされていた。
カバちゃんは壁に激突する前に受け身を取りつつ体勢を立て直した。やはり只者ではない。
「うわっ、ビックリした」
「大丈夫よ、安心して。遼一君。ノンケに手を出す程アタシら男に飢えてないって。冗談よ」
イッコーが遼一をなだめつつ、経緯を説明した。
「そうだったんですか。すみません大丈夫ですか?」
「大丈夫よぉ〜。強いのねぇ。レースに参加して良かったわぁ」
カバちゃんがウットリして言った。