Final story
ポタッ
頬を伝う滴が床に落ちる
僕は顔を上げ
もう一度微笑んだ
今度は、心からの笑顔で
(千奈…僕はずっとこうして
千奈の側にいるよ)
姿は見えないけれど
君の傍らに、いつまでも
左手を千奈に向けて差し出す
その上に千奈が
自分の右手を重ねた
「…あったかい」
千奈が目を細めて僕を見る
僕も千奈を見つめ返した
もう少しで見られなくなる
最も愛おしい人を
目に焼き付けておきたかった
「…優が側にいるなら
もう夜泣くのはやめるね」
千奈は笑った
僕の大好きな
愛らしい笑顔だった
僕はゆっくり頷いて
立ち上がった
一歩後ろに下がる
(愛してるよ、千奈)
「あたしも…あたしもだよ」
千奈の顔が悲しみで歪む
僕は微笑んだ
もう、涙は見せない
(僕は…千奈に出会えて
本当に良かったと思うんだ)
体が急に軽くなる
―もう時間だ
(だって、短かったけど
こんなに幸せな人生だった)
千奈が僕の名前を呼びながら
必死に手を伸ばすが無駄だった
「優…!
あたし…優の事
一生忘れないからね…!」
僕はまた泣きそうになって
必死にこらえた
体がどんどん軽くなり
消えていく
もう一度
君に会えて、良かった
(…千奈
ありがとう)
どうか
僕の愛しい人が幸せに
これから先の未来でも
明るく、笑って
生きていけますように
End