冷たくて、残酷で、不吉な予感に満ちた黒いかたまり。銃だ。
オバケはそれを見せてくれた。
「どう思う?」
「どこで手に入れたんだ?」僕は聞いた。
「俺は今ここで、簡単にあんたを殺す事ができる」彼は僕の質問には答えず、話した。「そうだろ?引き金を引けばいいだけだ」
不思議な事に全く恐くはなかった。
「でも、俺は引き金は絶対に引かない。何も銃に限った事じゃない。全部さ。物事っていうのは、常に何かが蓄積してってるんだ。それで、最後に誰かが引き金を引いちまう。ボカン。そうすると全てそいつの責任さ。善い事も悪い事もね」
引き金を引かない?何だか疲れそうだな、と思った。
「そろそろ帰るよ」僕は言った。「また明日、居酒屋でね」
「ああ」僕の方を見ずに言った。
オバケのアパートから僕のアパートまでは以外と近かった。歩いて10分とちょっと。
夜なのに、空に浮かぶ雲がやたらはっきりと見えた。満月のせいだ。
雲は満月を隠した。でも満月からしてみたら、雲は僕を隠したわけだ。
どうでもいい。
目の前にドアが現れた。家に着いた。