狭い店だった。
煙を焚いているせいなのか店全体が靄に包まれているようで。
『あやしい』
それを真っ先に思ったが、すでに受付の前にいた。
『へへ』
受付に美しく若い女が立っていた。
これは夢が幻か。まるで現実味がない。
面白い。
ほんの少し、いつもの日常を抜け出しただけなのに 、この僅かに芽生える好奇心は何なのか。
『あの、表の看板を見て・・・』
と、言葉にした瞬間、普段ならば何の障害もなく辿り着くはずの疑問に、受付の前まで来てようやく気付いた。
『てゆうか、ここって占い?人生そうだん?』
なんの店なのか分からず入ったのだ。
『初回は、無料になります。』
『あ。そうですか、じゃお願いします。』
『では、こちらに記入してそちらのソファにお掛けになってお待ちください。』
まぁ、無料なんだし、いっか。
そう。これが占いでも人生そうだんでも、どちらでも構わなかった。
普段ならば絶対に降りない階段を下り、そしてこの店に入ったという事実。
その事で、すでに自分の中の何かが満たせれていた。
そう。その程度だったのだ。
自分の中の非日常など。
たかが知れていたのだ。
自分の中にある異常性など。
その事に気付いた時には、もうなにもかもが遅かったが。