葉山瑠璃子は新潟出身だった。
「ねぇ、何これ〜?」
僕のiPhoneを勝手に弄り回していた百合子は、不満気と少しの好奇心を混ぜて聞いてきた。
「まーた人のiPhone勝手に弄ってる」
狭いキッチンで今日買ってきた惣菜類を電子レンジで温めていた僕は、手にそれらを持って彼女が座るリビングにしている部屋に入った。椅子ではなくカーペットを敷いた床に地べたに座るので木目調のローテーブルを置いていた。手の物をテーブルに載せ、彼女の横に座る。
四畳半の部屋にはそのテーブルと液晶テレビを配置している。
「いいじゃん、彼女なんだし。それに何かやましい事でもあるの?」
「別に無いけど、いい気はしないよ」
「メールとかは見てないから、安心して」
悪戯っぽく笑うとiPhoneを返してきた。笑うと笑窪が少女を思わせ、35歳という年齢より若く見える。
思わずその可愛さに、自分の彼女ながら照れてしまった。
「それより、何それ?また携帯小説?」
「そうだよ。サイトに投稿するやつ」
「ふ〜ん。余計なお世話だけど、もう辞めたら?」
「いきなり、なんだよ!?」
「ん、まさかホントに今から小説家志望なわけないでしょ?もう40じゃん。仕事に困ってる訳でなし。サイトに投稿してコメントももらえてないんでしょ?他の人と交流してる訳でもないし?」
「サイトなんて誰が見てるかわからないし、可能性がゼロではないよ。誰だったかベストセラー作家なんかイイ歳して仕事辞めて小説家になったんだよ?時間はかかったみたいだけど、書きかけの小説を奥さんに読ませたら、最後まで書きあげろと応援したらしいし・・・」
「呆れた。応援してほしいの?」
「いや、そうじゃないけど・・・。個人の趣味でもあるし、いいじゃん」
「んー、趣味なら、サイトに投稿しなくても・・。それに、あの、その、言ったら悪いけど、才能無いよ」