道場だった建物はそのままだった。
ふと見ると壁にポスターが貼られていた。
それには、師範ではなく、若い道場生がハイキックを決めている写真が使われていた。
この顔…
あ…少年部の…
それは当時少年部で一番目立っていた阿南君だった。
そうか…阿南君も今はもう大人だ…
当然だろう。
あの日からもう15年だ…
阿南君も25くらいか?
どうやら指導員になっているらしい。
道場は同じ中央線の別の駅に移転したと書いてある。
ま、もう関係ないが…
本社に出社すると社長に呼び出された。
現場の統括をしろとの事だった。
前任者が病気療養で長期休暇の為、俺が急遽呼ばれたらしい。
かなり大きな案件が三件あった。
早速俺は現場まわりに出掛けた。
挨拶まわりを兼ねて現状把握をしなければならない。
二件まわり最後の現場につくと何やら揉めていた。
とりあえず現場監督に挨拶をと名刺を差し出すと、
あんたが新任者?
ちょうど良かったよお、あのさ参ってんだよー
と、いきなりデカい声で監督が話し出した。
何かあったんですか?
実はよお、防災設備の野郎がよお、来ねえんだよーったくよお、二時間押しだぜぇ、段取り狂っちまうんだよぉ、奴らが来ねえと先に進まねえんだよおったくよお…
監督は口は悪いがいわゆるざっけないオヤジで、俺はこういうオヤジが基本的に嫌いではない。
電話は?
つながんねーょ!
でやしねぇ!
わかりました…じゃちょっと私が確認してみますから。
頼むぜ〜
わかりました…
ここの防災設備会社はと…
俺が資料確認していると、
来た来たっ!
と声がした。
見るとごつい身体のオヤジと三人ほどの若い人間が歩いてくる。
ん?どこかで見た顔…
よく見るとごついオヤジは佐山師範だった。
あ、そう言えば佐山師範は防災設備会社の社長だった。
まさかこんな所で…
いゃ〜遅くなっちゃって〜
そう言いながらやって来た。
現場監督は怒り心頭でわめき散らしている。
俺は監督をなだめつつ師範に挨拶をすませ、遅刻の理由を聞いた。
いゃ〜渋滞で…
渋滞で二時間ですか?
酷い事故でねぇ…
そうですか…わかりました…では早速仕事してください。
工期迫ってますから。
はいはい…
と、師範はにやけた。