どうしたんですか…皆さん?
あの野郎はよぉ、なめ腐りやがってんだよっ!
現場現場で勝手な事しやがってな、あんたんとこの社長の幼なじみだかなんだか知らねーけどよお
いい迷惑だったんだよっ!
にしてもだ、スカッとしたねぇ、あんたてえしたもんだょ!
どうやら今までも、適当かましてたらしい…師範殿は…
情けねえな…
俺は心底師範の人間性を情けなく思った。
先輩はこんな野郎に憧れて、そして侮辱されて…
俺は複雑な思いのまま社へと車を走らせた。
覚悟は出来ていた。 途中コンビニで便箋と封筒を買い辞表を書いた。
一瞬、九州の妻子が頭に浮かんだ。
路頭に迷わす訳にはいかないな…
社に着くと案の定社長室へ呼び出された。
俺は深呼吸するとノックした。
どうぞ、の秘書の声に何故か肩の力が抜けた。
都丸君、聞いたよ。
いきなり社長は険しい表情で言った。
俺は黙っていた。
困ったもんだねぇ… 全く…
俺は胸ポケットから辞表を出そうとした…が、
座りたまえ
との社長の言葉に促され、辞表は胸ポケットに納めたままソファに座った。
あれはね、幼なじみでね、ワルイ奴ではないんだが、少しルーズな奴なんだな。 さっきすごい剣幕で電話してきたよ。
君をクビにしろとね。
あれは空手の師範でね、世界チャンピオンになった事もあってね、なかなか有名らしい。
私の息子も道場生でね、たまに稽古を見るんだが、あれは結構偉そうな事をのたまうんだよ、社会貢献しろだの礼儀を尽くせだの…
自分の事は棚にあげてね…
社長…私は…
いや、都丸君はなんら落ち度は無いよ。 君の判断は正しい。 奴は切ったよ、私がね。
は!?
実はね、前々から考えていたんだが、どうしても幼なじみのね‥躊躇が判断を誤らせたんだね…いや、申し訳ない。
君には嫌な思いをさせてしまったね。
この通り、申し訳ない。
社長は深々と俺に頭を下げた。
俺は面食らった。
い…いえ…社…社長…やめてください…
都丸君、この先も宜しく頼むよ。
今回の件は私も反省させられた。
ありがとう。
取り返しのつかない過ちをするところだった。
君のおかげで気がついたよ。
思いがけない展開に唖然としたまま社長室を出た。
外を見ると夕焼け空が広がっていた。
缶コーヒーを飲みながら先輩を思い浮かべた。会いたいな…