次の日から、俺はどの現場でもすこぶる仕事がしやすかった。
瞬く間に噂は広がり、俺は現場の味方…として、好意的に受け入れられたらしい。
ま、災い転じてなんとやらで、悪いより良いにこしたことはない。
そうこうするうちに東京に来てから早3ヶ月ほど経った頃だった。
俺はクライアントとの打ち合わせの為に、待ち合わせ場所の喫茶店で先方を待っていた。
遅くなるとの電話を貰い、暇つぶしで人の出入りを眺めていると、何となく見覚えのあるような客が入ってきた。
あれ!?
あの人…
その客はワイン系の色が薄く入ったサングラスを掛け、服の上からでもわかる引き締まった筋肉質の身体をしていた。
俺より5歳くらい下かな?
誰かな…
俺は記憶をたどりちつその客を見つめた。
視線を感じたのかその客は俺を見た。
K先輩!
俺は思わず叫んだ。
少し怪訝な顔をした先輩は歩いて来ると
都丸君?
と笑みを浮かべた。
はいっ!先輩、ご無沙汰してます!
先輩は日に焼けた顔に優しさをにじませながら久しぶりだね、と俺に握手を求めた。
先輩は俺より遥かに若く見えた。
引き締まった身体と黒い瞳には生命力が溢れていた。
聞けば前日アメリカから戻ったらしい。 今はアメリカに住み、肉体労働をしているらしいが、具体的には教えては貰えなかった。
俺はあの日の話を先輩に尋ねた。
師範代をノックアウトした日
先輩は微笑んだ。
あの日ね、僕は師範代と師範に恩返し出来たんだ。
恩返ですか?
そう、先輩を乗り越えてやっと恩返しになるからね。
そうなんですか…
仕返し…じゃなく恩返しか…浅いなー俺は…浅い
先方が来たのでほんの僅かな再開だったが先輩とは再開を約束して別れた。
その再開から三月程後、俺は一人酒をのみながら土曜の夜更けにCNNをみていた。
アフガンに展開する海兵隊への密着レポートだった。
ヘルメットに防弾ベスト姿の女性レポーターが隊員に話を聴いている…と、その後方を海兵隊とは違う雰囲気の兵士が一人横切った。
レポーターはその兵士に気付くと隊員にきいた。
彼は?
シールだよ。
海軍特殊部隊のシールズ?
ああ、単独でのテロリスト追跡任務じゃないかな…
単独?彼は一人で行くの?
そうだよ…
彼女は慌てカメラマンに兵士を撮るように合図した。