松浦は失意のどん底にいた。長年付き合っていた女に捨てられた。いわゆる、ぽい捨てだ。ゴミのぽい捨てはやめましょう。街はきれいに!
居酒屋でべろんべろんに酔っぱらい、これまたアホみたいに酔っぱらってたサラリーマンと、お前はソース派か醤油派かと、わけのわからん口論をした挙げ句、なぜか大乱闘。店を追い出され、アスファルトに大の字。星空があまりにきれいで泣けてくる。
「いったいこれからどうすりゃいいんだ……」
松浦は密かに計画を練っていた。プロ作家になり、アルバイトを脱出して結婚する。
実際はアルバイトが長期化し、小説は停滞、女にふられる。トリプルネガティブ、三重苦のにせヘレンケラーだ。
「うっううう」
野良犬がげらげら笑っていたのでイラついて、けつを蹴飛ばす。「わぃん!」しかし松浦は前に進まないといけない。アルバイトを辞めれば収入がゼロになるし、小説を辞めれば、一生アルバイトをやらないといけない。
悲しくて悲しくてどうしようもないが、進まねばならぬ。上を向いて歩かねばならぬ。にせ坂本九ちゃんだ。
それによく考えれば、元カノにはいろいろよくしてもらった。失恋すると悪いことばっか思い出すが、冷静に考えると、いい思い出も少しある。いや、むしろたくさんある。
「まあビートルズを流しながら寝るかあ」
ビートルズジョンレノンには失恋の歌が多い。きっと松浦を癒してくれるだろう。
野良犬が松浦を起こしてくれた。「ありがと」「わぃん」
松浦は歩く。明日へと。それが人生ってもんだ。