踏切の前に立っている。アルバイトはろくなことない。低所得だし、仕事しんどいし、うつ病になりそう。もうウンザリ。生きてるのがいやになっちまった。電車が来たら、飛び込む予定だ。オレは本気だ。
すると。
神様の声が聞こえる。
「お前はプロ作家になるんじゃないのかい。死んだらおしまいだよ。死んだらプロ作家になれぬよ」
「もういいんです。疲れました。もう死にます。もうあの世へ行きます」
「早まるな。考え直せ」
電車が来る。よし。飛び込むぞ。
「バカやめろ」
「先生!」
誰かが強い力で腕を引っ張る。
「梨花ちゃん……」
なんと勤務先の塾の女子生徒だ。
「先生プロ作家になるんでしよ?死んだらなれないよ。死んじゃだめ」
「う、うん。でももういいんだ。疲れちまったんさ。もうダメなんさ」
「元気ないね。梨花がデートしてあげる。それならいいでしょ?」
「ありがとう。助かるよ」
腕を組んで歩く。ルンルン気分で歩く。
「先生見て。桜がきれいだよ」
「ほんとだ。癒えるなあ」
「すてきねえ」
「梨花ちゃんもすてきだよ」
「やん。恥ずかしい。ほんとのこと言わないで」
「調子に乗ってるね梨花ちゃん」
「えへへへへ〜」
急に警官がやって来た。
「援助交際だな。逮捕する」
「違いますって。腕組んで歩いてるだけですよう」
「そうよそうよ。梨花、先生からお金とってないし」
「ばか野郎。ホテルに行くつもりだろう。わかってんだ。何年警官やってると思ってんや。神様はだませてもわしはだませんぞ」
「んもう。勘違いポリスめ。うざいなあ」
「ほんと。頭のおかしいおまわりさんねえ」
「やかましい」
梨花ちゃんが手錠をかけられた。
「なんでーーーー」
「大人を惑わす悪いちびっこめ。刑務所に送ってやるぞ」
「そんなあ。理不尽よー」
「梨花ちゃん。刑務所行ったら手紙書くよ」
「先生までひどいよー」
梨花ちゃんはパトカーに乗せられた。
「刑務所は寒いけど、くじけるんじゃねえぞ」
「先生助けてえ」
「がんばるんだぞ」
「ふえ〜ん。理不尽ー」
パトカーが走り出した。
オレは書斎に戻り、ひたすら書く書く書く。読む読む読む。ユニコーンを聴きながら。
野良犬が不気味に吠えた。